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シリーズ30作品の動画には、こんな舞台裏が。

10年に渡り毎月制作しているPR誌。取材時に動画撮影も行い、インタビュー動画をYouTubeにアップするようになって3年目に入った。愛知・岐阜を活動のステージとし、奮闘する人を対象にした、地域の魅力発見動画だ。
その取材・撮影から戻ってきたドレッサーが疲れた声でつぶやく。
「天気があまりよくなかったから、スカッとした絵が撮れなかったんですよね…」
愚痴を聞いて欲しそうに視線をボスゴリに向ける。
「また来週、近隣のスポット取材に行くんだろ。その時に再撮すれば」と、ドレッサーが補助的に撮影してきた画面を覗くボスゴリ。ドローンで街並み撮影にも挑んだそうだが、せっかくなら太陽の日差しに照らされ、行ってみたくなる風景にしたいという気持ちも理解できる。そこは予算との兼ね合いだ。
シリーズ動画を30本近くもつくってきたのだから、多少の天候の悪さ程度なら修正加工できるだろうと思いきや、そんな簡単なものでもない。場数をこなし編集テクニックが上がっても、リアルな映像ほど説得力のある素材はないのである。それに、天候だけではなく現場では思いもよらないアクシデントが起こるもの。取材対象者となるインタビュイーの限られた時間内での進行やその人の応答力、光の具合、騒音・環境音など、多くの条件が求められるからだ。
「取材対象者がしどろもどろな上、少しでもカッコよくみせようと多くを語ろうとするがためにカミカミで…」
テンパっているにも関わらず、自分を大きく見せようとしどろもどろだったドレッサーの面接風景が頭をよぎるボスゴリ。
「他人のことを口にできるだけ自分は成長したということか」とにやけていると、
「それは違うんじゃないかな!と、同席した方が撮影中に口を挟んできて説明をはじめるんですよ。撮影中の注意事項を説明してあったのに、カメラが回っていることなんてお構いなし。取材対象者も、あっ、そうだったね!と仲間同士の会話になると表情が自然体になるのに…」とドレッサーは頬を膨らませる。
普段カメラを向けられることが少ない素人の方にスポットをあて、歴史や風土も説明してもらおうとしているのだから緊張するのは無理もない。インサートに使うイメージ的なシーンは再撮影をすればいいが、インタビューとなると相手の都合もある。踏み込んだ話を聞き出そうとしても、カメラを前にすると軽快なトークが期待できない場合は、回数を重ねても解決することは少ない。
だから、場の雰囲気を和やかにし、緊張を解き放って自然体で話をしてもらうのが、聞き手であるインタビュアーの腕の見せ所になってくる。本番を迎えるまで、世間話などとともに時にはバカな笑い話も交えてリラックスできる空気感に変えていくのだ。今回のインタビュアーはライターだが、同席するドレッサーはボキャブラリーも少なく、仕事のことした話し掛けられないため、相手も硬直したままになってしまうのだろう。

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素材づくりは、知恵と工夫と精神力で奮闘?

インタビュー内容に応じたシーンを映像途中に流すインサート素材は、一年前に撮っておく必要があるものもある。桜や藤、紅葉といった旬のものや、その時だけにしか行われない祭事・花火・イベント関係だ。しかし、これがまた難しいのである。自然が相手の場合はとくにそうだ。例えば、1月から咲き始める菜の花。開花状況を事前に調べ候補日を決定し、カメラマンをはじめスタッフのスケジュールを調整、いざ現地へ。今年は例年より早く満開になるのでは!とアドバイスを受けたものの、まだ満開にはほど遠い6分咲き。茎や葉っぱのグリーンが目立つ。散ってしまっていては難しいが、スケジュール的には余裕がある。まだ対応は可能だ。では改めて3日後、と足を運ぶとほぼ満開状態になっているものの、見上げると今にも降り出しそうなどんよりとした空が広がる。強風で菜の花は傾き、さらに大勢の観光客で撮影スポットはごった返す。
「私、雨女なんですよね!」と笑顔でドレッサーは話すが、二度目のトライにスタッフ一同笑うに笑えない状況だ。能天気なドレッサーを羨ましく思いつつ、みんな動画の完成が心配になるのである。関わるスタッフ全員が、完成度の高い動画を目指している証しだ。その昔、明治大学野球部の島岡監督は、ピンチになっても「なんとかせい!」と選手に発破を掛けたそうだが、制作の現場では知恵と工夫が求められる。さて、どうしたものか…
モチベーショの下がったスタッフを気遣ってか、
「週末にプライベートでまた撮りにきます」と元気にドレッサーが策を述べると、
「前回来たときに食べた食用の菜の花が気に入ったからでしょ。それが第一の目当てなんじゃないの?」とカメラマンが冗談を口にする。
「なんでバレたんですか!」と驚きを隠せないドレッサーだが、立ち寄った道の駅で、「詰め放題」の菜の花を袋が破れそうなくらいパンパンに詰め込んで、大人買いならぬ業者買いをしているのをみんな知っているのである。大きく膨らんだバッグを気にも留めなかったのは、グルメに目がないいつもの行動だから誰も口にしないだけのことだ。
「次に来る時は、菜種油も一緒に買おうと思って」
「やっぱり目的はそっちなんだ…」
あきれたスタッフは、今できることを考え作業に取りかかる。

そんなこんながあったものの、収録した素材を元に編集に取りかかり
「ま、編集のスキルアップもしてきましたし、なんとか繋いで完成させます!」と自信を漲らせるドレッサー。
「ごにょごにょと滑舌の悪い言葉も、イコライザーで補正しますね」と、菜の花を頬張りながら口をモグモグさせるドレッサーになぜか頼もしさを感じるボスゴリであった。