Little boy with a flashlight

「書体」から「フォント」への変遷。

 アナログが中心だった時代に「書体」と呼ばれていた様々な種類の文字のデザインは、デジタルの普及とともに「フォント」として定着するようになりました。活版印刷が盛んだった頃は、大きさや書体の異なる鉛でつくられた棒状の一文字一文字を箱に並べて「行」をつくり、「文」を構成して印刷していましたが、これも時代とともに進化。書体ごとのガラス板に無数の漢字、かな、数字、アルファベット、記号…が縦横に並んだプレートから使いたい文字を見つけて打ち込み、印画紙に印字していく写植(写真植字)が主流になりました。写植オペレーターと呼ばれる専門家に、書体や級数(大きさ)、長体や平体、斜体、文字間の詰め具合など、細かく指定をするのもグラフィックデザイナーの仕事。印字されるサイズには上限・下限があるため、ポスターに使うような大きな文字となると、指定して打ち出された最大級の文字を、暗室に入ってスコープで拡大し、さらに印画紙に焼き付けて印刷用の版下を作成するなど、手間のかかる工程をたどることも多々ありました。

 しかし、写植も電算化となりキーボードで入力することができるようになり効率化。さらに、マッキントッシュ・Adobeソフトの登場とともに、グラフィックデザイナーが印刷に入稿するために文字を直接作成できるように進化してきました。一方で、そんな現代だからこそ!と、紙に文字が凹凸した手触りや風合いを重視し、わざわざ活版印刷の名刺やDMを作成する人も多く、選択肢が増え続けています。

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使用途を考慮した上でのフォント選び。

 フォントの種類は日本語、英語をはじめ、各国の言語など膨大な数がありますが、その中でも代表的なものが「ゴシック体」と「明朝体」となります。同じデザインのフォントで、細いものから太いものまで幾つもの太さ(ウェイト)を持つシリーズをファミリーと呼び、デザインをする媒体内でファミリーを計画的に使用すれば、統一感のある紙面が構成されます。たくさんの種類のフォントを使用するほうが、手の込んだ良いデザインだと思われる方もみえますが、限定されたフォント、ファミリーで構成されたデザインは、シンプルでオリジナルの世界観が形成され、強いメッセージになりやすくなります。

 代表格となるゴシック体は、縦線・横線ともに太さが統一されカッチリとしたデザインの代表的な書体となります。欧文表記においては、うろこ(セリフ)と呼ばれる飾りが、ない(サン)ことから、「サンセリフ体」とも呼ばれています。また、ゴシック体の中にも、直線に多少の抑揚をつけ親しみを感じさせるものや、角を丸くして優しい雰囲気に仕上げた丸ゴシック体などが存在。子供を対象にしたものや、優しいトーンのデザインにしたい場合にその雰囲気を伝えることができます。
スタンダードなゴシック体は、飽きのこないドライなイメージで、横のラインが綺麗に揃うことで一つのかたまりとして認識されるため、ロゴタイプにもよく使われています。「ボールド」と呼ばれるような太いものは、ポスターのタイトルになったり、パンフレットの見出しに使ったり…と、パッと目を惹かせたいところに最適。また、名刺など小さい紙面でゴシック体を用いると、同じポイント数でも明朝体よりも読みやすくなります。手渡す本人は、小さい文字でグレーにしてカッコよく!なんてと思っていても、受け取る方が老眼の始まっている人だと、分かりづらい不親切な名刺に。せっかく、仕事の依頼で問い合わせをしようとあなたの名刺を手にしたのに、電話番号もメールアドレスもハズキルーペがないと見えない!と。知らず知らずのうちに、顧客満足度を無視し自分ファーストになっていることが多々あります。

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趣や品格を感じさせる、楷書体、草書体、行書体、明朝体。

 また、永字八法と言われるように、「永」の字に含まれるはねやはらいなど、書に必要な8技法がフェイスデザインに踏襲されているのが明朝体。横線が細く、縦線の太いデザインが特徴で、欧文表記では「セリフ体」や「ローマン体」と呼ばれています。抑揚のあるデザインからは優雅さや歴史的、伝統的な雰囲気が感じ取られ、真面目で正装なイメージも一緒に伝えられます。高級な印象を感じさせたい場合に用いるのも効果的です。同じ内容の文章でも明朝体で組まれた情報からは、無意識のうちに、信憑性が高く信頼感も一緒に受け止めている人も多いことでしょう。

 他にもいろんなフォントの種類がありますが、いずれにせよ、デザインに用いるフォントの種類一つを取っても、そのフォントの持つ特性やバックボーンを理解した上で、使われるシーンを想像することが大切です。先に述べた名刺の例にとどまらず、自分らしさを表現したプライベート用と、お客さまが対象となるビジネス用は区別し、「近づきやすさ、利用のしやすさ、便利であること」を意味するアクセシビリティ(Accessibility)に富んだサービスの提供ができるよう注意が必要です。目的を再確認し媒体特性も考慮して、デザインをすることをおすすめします。