今の姿と声で、想いを後世に語り継ぐ。
スマホやアプリの進歩によって、誰もが手軽に動画撮影を楽しめるようになり、YouTubeやSNSには膨大な量の動画が溢れかえっている。
その中には、アプリの編集機能で奇抜なギミックやインパクトのある演出が目を引くものも数多くある一方、
想いや物語をしっかりと伝えるインビュー動画を目にすることも多い。
「商品の説明をしっかりとしたパンフレットはあるんですが、もっと“気軽に”商品の魅力や開発者の想いを知ってもらえないか?って
クライアントから宿題をもらってきたんです」
手にしたパンフレットをパラパラとめくり、打合せから帰ったドレッサーが、会社近くにある人気店の生ドーナツを頬張りながらつぶやく。
「商品企画した開発者もミーティングに参加されて、製品化に至った熱量がハンパないんですよね」
「だったら、インタビュー動画を作ったらどう!
消費者や生活者って、商品やサービスそのものにはそれほど関心がなくても、そこまでに至った経緯や歴史、エピソードを知ると、親密度が増すからねぇ。
それに、動画なら容姿だけじゃなく声や仕草も伝えられるから、登場人物の人となりが理解されやすいんだよ。
お見合い写真だけじゃ、相手がどんな人だか情報がつかめないだろ」
「ボスゴリ、今の時代、出会いを求めるなら情報量の多いマッチングアプリですよ!
私が登録しているのは写真と自己紹介文だけですけど、海外では動画機能も増えてきているそうです」
スマホに映し出された、加工だらけの顔写真をボスゴリに見せるドレッサー。
もはや写真ではなくリアルなCGでは?と疑いたくなるほど、本物とのギャップに愕然としつつ、
「ほら、今や婚活でも動画なんだろ!?ドレッサーだってこの前、企業案件の動画を編集しながら『ここの会社すごいんですよ!』って言ってたでしょ」
ポカンと口を開け間の抜けた顔で、自分がその会社の商品を買ったことを思い出す。
「確かに!あの商品ができたストーリーを知ったら、欲しくなりますよ! 応援したくなる人もいっぱい出てくると思います」
商品の特長しか記載されていないパンプレットを手に、目を輝かせるドレッサー。
「『アトムの心臓』って小説、読んだかい? ま、ドレッサーが読むわけないと思うけど…
心臓病を煩う娘さんのために、医療は全く無知のお父さんが自分で研究開発をして、カテーテルを作り上げる話なんだ。
名古屋で実際にあった物語なんだけど、金銭的にも労力的にも大変な苦労を重ねて逆境を乗り越えようとする感動秘話にボスの目にも涙だったよ。
それを映画化したのが『ディア・ファミリー』さ」
「小説は無理ですけど、映画なら観てみたいです。生きている幸せ、生きる力がわいてきそうなお話ですね」
選択肢があれば簡単な方を選ぶのがドレッサーだが、思いのほかそういった人が多い。
読むことより、見ることの方が負担は少ないのだ。シンプルで簡単なのが動画のメリットでもある。
個人でもインタビュー動画をつくる時代に。
「でボスゴリ、インタビュー動画についてちょっと考えたんですけど、展開の仕方によっては多方面で活用できると思うんです」
今までの経験がヒントになったのであろう、自分なりにまとめたノートを開きながらドレッサーがボスゴリに説明をはじめる。
「撮影をした動画を切り取ったり繋ぎ合わせたりするだけじゃない編集が、うちならできるじゃないですか。
ストーリーの構成や視聴者がリアルを感じる演出、関心を高める工夫なんかも喜んでもらえると思うんです」
CMや動画制作を専門とする会社ではないため高額な機材や大勢のスタッフはいないが、複数のカメラを使ったりドローン映像を織り交ぜたり、
対象者の隠れた一面を引き出したりと、シリーズでインタビュー動画を作ってきたノウハウが蓄積されてきたのだろう。
「売り手の人間が登場するインタビュー動画って、通販番組に似ている気がするんだよね。
番組は予算をかけて、トークのうまい人やタレントを使って電波媒体に載せ、商品の機能や魅力を発信しているだろ。
それがインタビュー動画なら、本人が登場してリアルな姿や表情・声で想いを届けている。
インタビュイーの今の様子や情熱なんかを後生にまで残すことができるんだよ」
「消費者に向けたメッセージはもちろん、求職者への現場の声もメッセージできますよね。それに株主に向けてだって!
企業展なら画面を通してセールスポイントを伝えられますよ」
会話を続けながらメモをしはじめるドレッサー。アイデアが発酵しはじめたようだ。
「今後益々あらゆる方面でインタビュー動画のニーズが出てくると思うよ。
いかに発信側がうまく活用するかってことだろうね。
それがインタビュー動画の作成は、今や企業だけに限ったことではないんだ。
終活として、自分史を残すためにエンディングムービー・終活ビデオを作成するニーズも増えてきているようなんだ」
50を過ぎたボスゴリは、自身の終活を意識しているのだろうか。
「企業なら、それを社内のアーカイブとしても残せますよね。
創業者や貢献者の銅像を残すってのもありますけど、そこからメッセージや想いは受け取れませんもんね」
「それにバズることを目的としてSNSやYouTubeに動画をアップしても、
そう簡単に『バズるコンテンツ』にはならないからね。
少しでも多く露出させようとすると、インフルエンサーへの支払いや高額な媒体費用が負担となって、資金力がないと継続は難しい。
でもインタビュー動画なら、今までに表面化していなかった想いや物語を理解して欲しい相手に向けて、
ネットはもちろん、会場や店頭でもメッセージできるんだ。名刺にQRを印刷して、自己紹介動画へリンクさせることもできるよね」
ドレッサーがメモしていたノートをボスゴリに提示する。
描かれた絵コンテは、自分をモデルにしたマッチングアプリ用の動画だ。
如何に自分が素晴らしいかとコスプレのような派手なメイクを施し、加工した声とともに自分の様々な側面をアピールするプロモーションビデオのようだ。
読書は苦手だと言っているのに、趣味のひとつに入れるそうだ。
「オンでもオフでも、これだけネタがあれば、どこかで共感を持ってくれる人が現れると思うんです!」
ウソ・大げさ・まぎらわしい… 一度JAROに連絡をするべきか。ボスゴリは今日も頭を悩ませる。