活字離れの現実とアナログ回帰の新潮流
デジタル化に伴い、活字離れが進んでいると言われてどれくらい経つだろう。
町から書店がなくなり、雑誌の廃刊も相次いだが、時代のニーズはグルグルと回っているようだ。
海外では活字が見直され読書会が人気を集めたり、電波の届かない僻地に泊まり込む宿泊施設も人気らしい。デジタルデトックスなる動きも出てきているという。
「効率化」や「コスト削減・便利さ・スピード」が、スポットライトを浴びつつあるなか、
アナログならではの良さを再発見する人たちも増えてきているのだろう。
情報を発信する媒体においても、同じことが言えるのかもしれない。
歯科医院が展開していたネット広告を、複数の箇所を使った屋外看板に切り替えたら、
大反響となり来院者数が急増、媒体費まで削減されたという話もある。
ビジュアルのアイデアも重要なのだが、柔軟な発想でアナログ媒体の魅力に耳を傾けることも広告主には求められている。
スマホ全盛の時代に、クライアントで開催された文具女子博は大盛況だったようで、
書いたり、描いたり、切ったり、貼ったり…と、手に馴染むツールが熱いらしい。
「ボスゴリ、知らないんですか!日本の文房具は細部にまでこだわりが詰まっていて、
わざわざ海外から買い求めに来日する人もいるんですよ」
お気に入りのトートバッグから、買ってきた文具を取り出しながらドレッサーが饒舌に語る。
「この手帳用のノート見てくださいよ。質感がすごいんです。ジェットストリームで書くと、チョー滑らかにペンが進むんです。
100均で十分なんてセコいこと言ってないで、この至福の感覚、味わってほしいなぁ。
でね、こっちの筆ペンは、筆圧の加減次第で抑揚がつくから書家になった気分ですよ。
カリグラフィもきれいにかけると思うんですよね。私には書けないけど。
スケッチもできそうだから、旅行先で絵はがきでも出そうかな、なんてね」
自分で使う仕事の道具には全く興味を示さないのに、好きなモノに対しては熱くなるのはいったなぜだろう。
「そんなにテンションが上がるんだったら、打合せ用の文具にも活用すればいいじゃないの」
「でも、オンとオフはしっかり切り替えたいんですよね。
でも、確かに打合せ時のメモやラフスケッチを描いたりするときも、気分上がりますよね!」
「だろう!気分良く過ごせるし、仕事もはかどって良いデザインができるんじゃない」
「ですねよ!だったら残業なんかしなくても、定時で飲みに行けますよね!」
広く浅くか、狭く深くか、人それぞれの働くスタイルが認められつつある昨今、
メリハリを効かせることで、クオリティ・オブ・ライフを上げられるかも、と考えさせられるボスゴリ。
「ぼくも久しぶりに万年筆の手入れをするか。よし、今日はお開きにしよう!」
まだ明るい大須を後に、ボスゴリは名駅にあるハンズへと急ぐのであった。
デジタル時代における新聞広告の信頼性と活用術
手帳に挟みこんだプラチナの万年筆をバッグに忍ばせ、ご満悦のボスゴリ。取材先に向かうと、すでに新聞記者が。
こちらはディレクターであるボスゴリを筆頭に、デザイナーのドレッサーとカメラマン、ライターの4人体制。
一方新聞社は記者さんひとりで、一眼レフを肩にぶら下げテキパキとメモを取る。
写真を撮る際も自前の脚立に乗っかったり、膝をついて低姿勢で撮ったりと、ものすごい機動力だ。
自分の足を使って、確かな身元から情報をアグレッシブに集めていく記者さん。
社に戻って原稿をまとめ、さまざまなチェックを受け、晴れて紙面に展開されるのだろう。
情報が氾濫する時代、スマホやPCでかんたんに情報は画面に映し出されるが、
確かな内容か確認することもせず、拡散されることも多い。
しかし、新聞は信頼性が高く、そんな心配はいらない。
定期的に新聞に出稿している住宅関連のクライアントさまがいる。
一生モノの買物とあって、高額な商品だけに若い世代の家族だけが広告の対象ではなく、その親もスポンサーとなる確立が高い。
だから、信頼の高い媒体で親世代にもアピールをし、集客につなげたいと話す。
また、自動車ディーラーの新聞広告案件でも同じ狙いが見て取れる。
参考資料を探しているのか、新聞の縮刷版に目を通していたドレッサーに声をかける。
「この前に掲載されたディーラーのカラー広告があっただろ! 地域に根ざした企業として、県民に周知するPR活動で身近な存在であることを伝え続けているんだよ。
そのためには、地元の話題が掲載された記事といっしょになった新聞紙面が有効なのだろう。
こんな祭りが開催された、こんなチームが大会で優勝した、こんな取り組みをしている若者がいる!といった、
『地域版』こそ自分たちをアピールするステージと考えているんじゃないかなぁ」
そう呟いて、ボスゴリは今日も県内各エリアの地域版に目を通す。
「折り込みチラシの方が、単独でアピールできるから効果的だと思っていましたが、新聞紙面にはそんな効果があるんですね。
確かに地方版は楽しい話題が多いですもんね。そんな情報と同じ紙面に掲載されていたら、
心理的にもプラスのイメージが定着していきそうですよね」
普段は新聞など目を通していないだろうドレッサーが適当に答える。
終業時刻が迫っているため、定時までにボスゴリの話を切り上げたいのだろう。
「ま、真相は定かではないけどね。新聞広告と言えば、スペースは小さいけどテレビ面の広告も目に着くよね。
でね…」
良かれと話しを続けるボスゴリだが、ドレッサーは貧乏ゆすりならぬ健康ゆすりが激しくなり、顔がヒクヒクと引きつりはじめる。
新聞の縮刷版を覗いていたのは、資料探しではなく退勤までの時間つぶしをしていたようだ。
聞くことより、話すことが重要だと思い込んでドレッサー。「新」らしく発せられる言葉に、耳を傾けしっかりと「聞」いてほしいのにと、ボスゴリは肩を落とした。