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感情の波に乗る広告 フルーツサンドの教訓

「“ゴリラの血液型はみんなB型。だから怒りっぽいんですかね?”そんなくだりが、小説“四月になれば彼女は”に書かれていたんだ。失礼な話だよ。でも、ボクは思うんだよね。“怒る”ってのは、感情のひとつだろ。4角で書く“心”は、一角一角が、喜・怒・哀・楽を表し、2角目が長いのは、人生の中で怒れることが多いからなんだ!ってね」
「だから、誰もが多くの怒りを持っているってわけですか?うーん、それはボスゴリだけでしょ。やっぱり、その小説に書いてあったこと、ボスゴリには当たってますよ。でもその分、“喜ぶ”と“楽しい”って、良いことがふたつもあるじゃないですか」
「おっ!たまには良いこと言うじゃないか!」
先越されたボスゴリだが、同じ考えであることに顔が緩む。
「じゃあ、“心操技安”って知ってるかい?」
「シン・ソウ・ギ・アンですか?いえ、初めて耳にしました」
「勉強不足だなぁ!“自分の心をコントロールできる技を身につけると、安寧になれる”ってことなんだ。ボクがつくった言葉だけどね」
唖然とするドレッサーの口と目は、ポカンと開かれたままだ。こういうときは、意図的に無視しているのである。
「だから、ドレッサーが“このデザインの仕事、楽しかったです!”なんて言うと、嬉しくなるんだよ。せっかくなら、イヤイヤ仕事をするより、楽しんでほしいからね。自分の心を操作して、上機嫌でいられるのは良いことだよ。まっ、いずれにせよ、周りに惑わされないよう心を鍛えれば、悩むこともなくなるってことさ。ボクも、情報や人の発言に揺さぶれない自分になりたい!って願いつつ、広告では人の心を揺さぶっているんだから、矛盾しているけどね」
そもそも広告とは、自社の商品やサービスをお客さまに買ってもらうために知らしめるものが多い。そこには、さまざまな戦略が練られているのだが、“欲しい!必要だ!”と、如何に人の感情を揺さぶることができるのかが、カギになってくるのだ。レスポンス広告において、必要性を感じさせる“ニーズ”ではなく、それが欲しい!と思わせる“ウォンツ”が重要となるのは、まさしく、人の感情を揺さぶるアプローチは、効果があるからなのである。
「岡崎市にある“ダイワスーパー”って知ってるかい?」
「普段の買い物は、近所のスーパーかドラッグストアが中心だし、外食も多いんですよね。通販で購入するものもありますし、実家から送られてくるものもあったりして。だから、そのスーパーは知らないです」
質問に対して、結論がすぐに答えられないのがドレッサーだ。“結論を先に!”と指摘されても、本人に強い意志がないため、簡単にはなおらない。いや、その指摘さえ忘れているのだろう。
「だったら、丸印しに“ダ”とデザインされたフルーツサンドならどうだい?」
「あ〜、それですか。それなら、行列に並んで食べたことがありますよ!“映える”って、全国からお客さんが押し寄せて、いろんなメディアに取り上げられていましたよね」
記憶というのは、恐ろしいものである。実際に現地まで足を運んでいるのに、買い手にとっては商品の記憶しか残らないのだ。だから、それを知っている企業は中小企業でも、しっかりと記憶に残して、買い続けてもらえるように広告を繰り返すのである。LTV(Life Time Value)こと、“顧客生涯価値”をあげるために、策を打っているのだ。
「そのダイワスーパーの若社長がね、おじいちゃんから言われた言葉に“いつも上機嫌で”、“嘆いてばかりじゃ、道は拓けない。やれることはまだまだある”ってのがあるんだ。だからボクはね、広告も、人を奮い立たせて、新たな道を拓くために背中を押す力になれば!と思っているんだ。“行動促進”ってことかな」
「フルーツサンドからの、その流れですか」
ドレッサーにとっては、何かの参考になったようである。早速ノートを開き、久しぶりにメモをとる。“広告は、対象者を新しい世界へ踏み出させるために背中を押す行為。ときには、フルーツサンドのように、記憶に残る甘い言葉を繰り返して”。

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心に響く! ハイカカオチョコと広告戦略

ドレッサーには、“いつもニコニコ上機嫌で!”と語っておきながら、ブスッと沈みがちに画面とにらめっこをするボスゴリ。先方の都合で、朝一からデザインをスタートさせないといけなくなり、スケジュールを調整した案件が原因だ。資料を送ってもらうよう何度も連絡をしてあったにも関わらず、昼前になっても届かないのである。広告代理店の担当者に何度電話をしても繋がらない。痺れを切らして、早めのランチを取っていると、ようやく電話が入ってきた。
「すいません!資料の件ですよね?実は、お送りいただいていた企画案を1週間前に、得意先に送っているのですが、まだ、それもダウンロードされていなくて…。私も得意先に電話で確認をすることを忘れていました」
ボスゴリの体内に流れる、B型の血が騒ぐ。担当者に企画案を送ったのは、2週間以上も前。以前も同じようなことがあったばかりなのだ。不明な内容が多く、得意先に確認していただくように伝えたものの、間に入るその担当者自身が理解しないまま、得意先との適当なやり取りを繰り返した。その結果、信頼を失うとともに方向性が大きくずれていった苦い経験が思い出される。関わる人が多いほど、チェック機能が増すのは良いことである。その反面、方向性が分散されたり、仕事が滞ったり、意思疎通がスムーズにいかないことも発生するのだ。物事には、良い面もあれば悪い面があることを再認識させられる。
「得意先とも連絡が取れ、期限切れでダウンロードされていない企画案を再送することになりました。で、資料の件も伝えましたので、改めてリスケします」
“こんなことなら、予定に入れてあった今日のセミナーに出席できたのに!”と、イライラが募る。
「ボスゴリ、怖い顔してますよ!糖分でも摂ってリラックスした方がいいんじゃないですか?コンビニでフルーツサンドでも買ってきましょうか?ボスゴリの驕りで」
気分転換に良さそうであるが、パンも特注で、生クリームも試行錯誤を繰り返してつくった、ダイワスーパーのフルーツサンドの記憶がよみがえる。コンビニのものでは納得できないだろう。フルーツサンドは諦め、メスゴリから毎日持たされているカカオ86%のチョコレートを口に運ぶ。個包装された金色のパッケージを見ると、“美と健康を考えた、高カカオポリフェノール”とある。
「危ない、危ない。フルーツサンドを食べていたら、血糖値ボーン!になるところだった。歳も歳だし、健康には気を付けないないとね。何年も食べ続けているこのチョコなら、血糖値の心配どころかポリフェノールが多いから、体にも良いんだよ。気のせいか、少しは怒りも治まってきたようだし」
ポリフェノールは、“動脈硬化などの生活習慣病の予防に役立つ”という、具体的な効果まで知ってか知らずか、ボリボリとチョコレートを噛み砕くボスゴリ。
「ボスゴリ、そのパッケージの甘い言葉に心を揺さぶられてるんじゃないですか?口に入れてすぐに効果が出ますかねぇ?サプリみたいに、信頼して何年も食べ続けてるってことは信者ですね。ヘビーユーザーで、LTVの数値、ボーンですよ!」
テレビの健康番組で紹介されていた、高カカオポリフェノールのチョコ。数日後、スーパーに行くと、“テレビでも話題の”とPOPもあった!と、まとめ買いをしてきたメスゴリ。信頼できる情報源や、繰り返して飛び込んでくる同じ情報に、人は安心し反応をしてしまうものだ。それゆえ、その消費者目線、消費者感覚を、ビジネスシーンへ変換することができれば、発信側として有効なアプローチが可能になる。
相手の心に響く広告・メッセージを届けたいものである。