Little boy with a flashlight

心配りをアピールしたいのに、結果は不親切な扱いに

 創業依頼20数年に渡り3,000アイテム余りのコミュニケーションデザインに携わってきました。その中の大半は企業案件で締められますが、自治体・外郭団体の仕事も少なくありません。その際によくいただくご要望が、「ユニバーサルデザインを」とのこと。年齢や性別、文化、障害の有無などを問わず、どんな人にとっても快適に利用できる設計がされたデザインを差し、広告や販売促進、ブランディングなどでデザインされたツールにおいては、「フォントや色」が大きな対象となります。工業製品なら、左利きの方にも使いやすい道具などが、ユニバーサルデザインにあたります。

 さて、数年間担当させていただいた2つの自治体の広報誌は、月に2号発行する濃いボリューム内容のデザイン案件。いずれの広報誌ともに基本書体は、ユニバーサルフォント(以下UDフォント)を用いることになりました。しかし様子を伺っていると、「この印刷物は、あらゆる利用者の方にとって文字が読みやすくなるよう、UDフォントを使用しています」と、多くの方に配慮した取り組みをしている、というスタンスをアピールすることが目的にすり替わっているように感じることもしばしば。紙面にスペースがないのに多くの情報を載せないといけないからと言って、文字の大きさをそこまで小さくしてはダメでしょ!と頭を抱えてしまうのです。

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機能性が高いフォントはUDフォントだけ?

 そもそも「UDフォント」とは、障がい者や高齢者の方など、あらゆる利用者にとって文字の形がわかりやすく、読みやすく、読み間違えにくいことをコンセプトに開発されたフォントのことを言います。コピーされた用紙や受け取ったFAXの文字がつぶれたりかすれたりすることも想定し、設計されているのです。十数年前からこのようなフォントが開発されはじめていますが、フォントメーカーのUDに対する考え方によりデザインされており、厳密な字形の定義があるわけではないようです。年とともにその種類は増えてきていますが、まだまだどのフォントにもUDタイプがあるわけではないのが現状で、趣のあるフォントや伝えたいメッセージの内容に合ったフォントにこだわりがあるのなら、UDフォントを使わなくても少し文字を大きく扱ったり、1ウェイト太いタイプを選べば、多くの方に配慮した同様の取り組みとなります。また、ホームページの閲覧が増えているスマートフォンやタブレット端末などの小さな画面でも、文字がはっきりとし、見やすく、読みやすくなるため採用したいと言う場合においても、タイトルや見出しコピーなどは本文より大きく扱われますので、その限りではないでしょう。

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見え方は人それぞれ、十眼十色。

 紙面や画面で重視されるユニバーサルデザインのもう一つが「色」。色覚の多様性に配慮して、より多くの人に利用しやすい製品や環境、サービス、情報を提供するという考え方を「カラーユニバーサルデザイン」と呼びます。色のユニバーサルデザインである「カラーユニバーサルデザイン」においては、色弱者特有の見え方も考慮し、一般の方はもちろん誰もが視認しやすい配色を施します。色の見え方には個人差があるため、人によっては一部の色が区別・認識しにくかったり、読みづらく不便さを感じるケースもあります。特に色背景の上に色文字を乗せる場合は、さらなる注意が必要です。文字にフチ取りをするなどの工夫を施しましょう。

 目を網膜剥離した経験のある私は、その後40代で白内障となり左目のみ手術をすることに。術後は、同じ白い紙を見ても、左右の目で若干色目が異なる見え方になってしまいました。私は軽度な違和感だけですが、病気や事故で見え方が大きく変わってしまった方もたくさんお見えになるのでしょう。こうした背景からも、多くの人が同じように情報を認識できる配色のデザインが社会的に求められています。鉄道やバスなどの路線案内図や災害時の気象情報の表示をはじめ、公共性が高く安全性に関わる分野を中心に見分けやすい配色やデザイン上の改善が進んでいます。また、一般社団法人日本ユニバーサルカラー協会では、「すべての年齢や能力の人々に対し、可能な限り最大限に使いやすい製品や環境デザインを実現する色」として、良質な医療福祉の環境・製品に必要な要件を「認定基準」として定め、医療福祉関連の環境・製品デザインに対する「UNICAマーク認定事業」も行っています。

 参考までに、デザインを進めていく上で使用するソフト「Illustrator」には、色弱者にどう見えるのかをシミュレーションする表示モードが組み込まれています。メニューバーの「表示」から「色の校正」にカーソルを合わせると、赤い光を主に感じる錐体が無いか分光感度がずれている「P型(1型)色覚」と、緑の光を主に感じる錐体が無いか分光感度がずれている「D型(2型)色覚」を選択することができます。元の色と大きくかけ離れた色で表示されますので、きっと驚かれることと思います。