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イベントで露出!優しい顔したウラの顔

「それにしても面倒だなぁ…」

取材者に書いてもらった個人情報使用許諾書を、カバンから取り出しながら呟くボスゴリ。
顔写真をはじめ、個人が特定される情報を扱う場合には、誰が何に使用するのかを伝えた上で、承認のサインをもらわないといけないのだ。
それが世界のスタンダード?のようだが、日本でも定着しつつあり、それゆえ個人情報を取り扱う側の作業は増えてしまうのである。
「ボスゴリはいいですよ。それを管理するのは私なんですからね。こっちの方が、もっともっと面倒なんですよ!」
ドレッサーが手を伸ばして、その書類を受け取ると、背幅8センチほどの分厚いファイルに慣れた手つきで挟み込む。
ぎっしりと束になったファイルは、何冊になるのだろう。2年に一度、プライバシーマークことPマークの登録更新審査があり、遂行しないといけない業務が多いのだ。

「街中で人が多すぎて、個人情報の了承を取れなかったのか、顔がボカシだらけのテレビ番組も多くなってきましたよね。
ピントがあってるのは上部の建物や空くらいで、長い時間見ていると気分が悪くなりそうですよ」
ボカシを入れた仕草をしているのか、両手で顔を覆い隠したドレッサーが言う。
「テレビ取材が会社や学校なんかを訪問したシーンには、数人だけボカシが入ってるなんてこともあるよね。
すごく不自然で違和感を覚えるんだけど、顔がオープンになるのを断ったんだろうね。人それぞれ事情ってヤツがあるんだろうな」
新聞や報道など、ニュースを伝える媒体では、しっかりと顔写真が映し出されているが、
炎天下のなか、ハンカチで額の汗をぬぐいながらぐったりと歩く姿であったり、台風接近で逆さになる傘と奮闘する見られたくない顔も目にすることがある。
「電通マン ぼろぼろ日記」にも書かれていたが、打合せに行ってきますと飛び出した営業マンが、
昼中に発生したホテル火災で女性と慌てて服を来たような姿で避難してくるシーンがニュースに映し出されていたということもあるようだ。
「今日は体調が悪いので早退します」と力なく帰っていったドレッサーが、ナゴヤドームのデーゲーム中継で観客が映し出された中にいたのは一年前の話だ。
体の具合を気遣って送ったLINEの返信には、寒気がするのでおとなしく寝ていますとあったが、
テレビ画面の向こうでは、ビールメーカーのロゴが入った紙コップを片手に、元気よくメガホンを突き上げていたのも今となっては笑い話になる。
広告や宣伝に使用するとなると、掲載される人の承認が必要になるのだが、いったいプライバシーとは何なのであろう。

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デジタル時代のプライバシーマネジメント

「私の男友だちも、参加したイベントが取材されたそうなんですけど、交際中の彼女にウソをついて新しくできた彼女と行っていたみたいで、ボカシを入れてもらったって笑っていました
私なんか、いまだにひとりの彼氏もいないのに、許せませんよね!」そう言ってドレッサーは、自分は東山動物園の人気動物ベストテンで1位だったのになんでだろう?と鏡で自分の姿をチェックする。
一年前の自分の過ちはきれいさっぱり忘れているようだ。
「私が会社を立ち上げた頃は、お客さんのところに行っても担当者の席まで入ることができて、顔見知りも増えたもんだが、今は受付でシャットアウトされているからな。
プライバシーだけじゃなく、セキュリティも厳しくなったんだ。居留守を使われていてもわからないよ」
アナログ作業も多くて大変だったけど、それはそれで良い時代だったよなと腕組みをしたボスゴリからはため息が漏れる。
「ボスゴリが来客者なら、私でも居留守を使いますよ。あっそう言えば、先日打合せに行った印刷会社さん、Pマークの登録事業者を辞められたそうですよ」
煩雑な手間と大きな費用がかさむため、そういった企業も出てくることだろう。有名な大企業ですら、個人情報流出!のニュースが絶えないくらいだ。
だったら、中小企業が本業とかけ離れた膨大な作業に手間取って、Pマークを取得し続ける必要性を疑ってしまう。

「でも、ドレッサーも個人情報を管理する上で、いろいろと気付かされているんじゃないか?書類やパソコン機器の管理の重要性を。
コミュニケーションデザインの仕事をしていると、個人情報だけじゃなく、世の中にはまだ認知されていない情報を取り扱うことが多いだろ。
大切な情報を適当に管理していると、大変な目に合うんだよ」
多くの会社が取り組む、整理・整頓・清掃・清潔・躾けの5S、所作や作法まで徹底するところさえある。
それはお客さまからの信頼にも大きな影響を与える。Pマークの認証もこの延長線上にあるのかもしれない。
「確かにそうですよね。自動車メーカーのデザイン案件を受けたときも、機密情報の管理を徹底しましたもんね。でも、そういった業務が増える分、制作費もどんと“アップ”されるといいんですけど。
じゃあ、そろそろ私も“アップ”しますね」テキパキと書類をキャビネットに片付け、時計を気にしながら素早く岐路につくドレッサー。
日中の仕事もこれくらテキパキとやってくれれば、1案件あたりの制作費も割高になるのに、とあきれかえるボスゴリはドレッサーがやり残した仕事に取りかかるのであった。